航空機の火器装備方法と発動機の間には密接な関わりがある。
まず単発戦闘機の火器装備位置だが、震電や閃電など推進式の機体やフルマーやデファイアントなどの複座機を除くと以下の3点(斜銃を入れると4点になるがこれはちょっと忘れていて欲しい)に絞られる。

1. 胴体(同軸を除く)
2. 主翼
3. 同軸

まあ、これら3カ所のどこにするかでそれなりに利害得失があるのだが、とりあえず制約から眺めて見よう。
1の胴体は水冷V型の場合、空気抵抗が大きくなるので芳しくない。
とは言えソ連のMiG系やらYak系やら米のP40初期型やら結構、装備してる例もあるのでまったく駄目と言う訳ではない。
ちなみに胴体装備には精度の良い同調装置が不可欠となる。
特に大口径火器には。
2の主翼は1式戦など装備スペースの無い多桁構造の機体及び木製主翼など脆弱な機体は×である。
また脚の折り畳み方次第では相当の制約があるし、翼内燃料タンクや各種ボンベ(特にドイツ)との共存からも制約が生ずる。
3は「発動機後背部に火器装備スペースがある水冷発動機以外」は全て×。
と言うより「同軸火器を装備する為に開発された発動機以外は全て×」と言った方が早い。
そして同軸火器を装備する為に開発された発動機は独のDB600系とユモ213系、仏のイスパノスイザとその発達型に当たるソ連のクリモフ系だけなんだから話は簡単だ。
おっと忘れてた。
特例として機体後部に発動機を装備し、機首に火器を装備する変則的な疑似同軸火器があったっけ。
米のP39やP63、日本のキ88などがこのタイプで、プロペラと同軸ではあるもののモーターカノンとは見なされないんだからややこしい。

キ88


あくまでも「一般的な同軸火器」とはプロペラ、発動機、火器の順で並んでいる形式を指すのである。
それでは各国がどの様に火器を装備していったかを概括するとしよう。
わかりやすい所で最初は英国。
1934年9月に初飛行したグラジエーターはパッとしない複葉機だったが、火器装備に関しては画期的な戦闘機だった。
それまでの英国戦闘機はご多分に漏れず他国と同様、発動機の上へ2門の7.7mm機銃を胴体装備していたのだが、なんとグラジエーターは胴体銃に加え主翼にも機銃を装備していたのである。
前年に初飛行を果たしたソ連のI−15、I−16も翼内銃装備を始めていた矢先なのでどっちが世界初と決め難いが、いずれにしても常識を覆す画期的な事だった。

グロスター グラジエーター


なにしろ第1次世界大戦からこっち「戦闘機は複葉機で主翼は木桁に布張」なので、「重くて反動の強い火器」を主翼に装備するなど論外と考えられていた。
そしてグラジエーターは英軍最後の胴体火器装備のレシプロ単発戦闘機となり、以降の英レシプロ単発戦闘機は全て主翼へ火器を装備する様になった。
英の単発戦闘機が胴体火器を復活させるのはジェット化されてからである。
ここらへんの英国人の割り切り方はシャープかつ大胆で、ジョンブル魂の片鱗を見せつけられた気分になる。
ドレッドノート然り空母のアングルドデッキ然り...
胴体火器装備を考えなかったからV型であっても倒立に匹敵する空気抵抗の小ささを実現できたのであり、同軸火器装備を考えなかったからこそ排気タービンに匹敵するインタークーラー付2段過給器を装備できたのだ。
「救国の名機スピットファイア」や「最良のレシプロ戦闘機P51」が傑作機たりえたのは、ロールスロイス・マーリン発動機と主翼装備火器の組み合わせがあったからに他ならない。

スーパーマリン スピットファイアX
ノースアメリカン P51D


戦闘機の飛行性能(速力、航続力、旋回力など)と戦闘性能(火力、搭載力、防御力など)は両立する必要があるが、マーリンと主翼装備火器は第2次世界大戦に於けるひとつの模範解答と考えられよう。

さて、もうひとつの主翼装備先進国であったソ連はどうであろうか?
これがなんとI−15、I−16以後、主翼装備を止めてしまった。
その理由は大戦中に生産された各種ソ連戦闘機の主翼がアルミ節約の為、木製化された為である。
よって主翼下へポッドで追加する場合を除き、火器は胴体もしくは同軸へ装備せざるを得なくなったのだが...
同軸火器を装備できるクリモフ発動機を装備したYak系は良いとして、La系とMiG系は全火器を胴体へ装備する事になった。
胴体に火器を装備するのなら倒立水冷V型が良いのだが、悲しい事にLa系は空冷、MiG系は水冷V型で胴体装備には不向きであった。
でも背に腹は代えられない。

ミコヤン=グレビッチ Mig1
ラボーチキン La5


MiG1/3では機首上面にズラリと3門の機銃(12.7mm1門、7.62mm2門)を並べたが、空気抵抗を減少させる為に発動機の後方へ火器装備位置を寄せたので妙に鼻の長い変な機体になってしまった。
La系は機首に20mmをLa5が2門、La7が3門、La9に至っては23mmを4門も装備した。
機首に大口径火器をこれだけ大量装備した単発レシプロ戦闘機(推進式を除く)は類例を見ない。
20mmや23mmなら1発当たってもプロペラは吹っ飛ぶだろうから射撃する時はさぞ怖かったであろう。
なんまんだぶ...
Yak系は同軸に20mm1門を装備していたが、さすがにそれだけでは足らず機首に7.62mmもしくは12.7mmを1〜2門を装備した。
充分な火力ではないが全体のバランスも取れており、木製戦闘機としては傑作と言えよう。

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